2017年中国都市囲碁リーグ対貴陽戦(貴陽)
6月30日(金)~7月3日(月)にかけて、中国都市対抗リレー碁に出場するため、
上海経由で貴州省の貴陽市に行ってきました。貴陽市には、森林が多く、アジアで一番規模の大きな滝と言われる黄果樹瀑布があります。中国でも有名な観光都市だそうです。
着いた瞬間、ここは中国なのか?と思うくらい空気が澄んでいて、失礼ながらびっくりしました。大阪から貴陽市まで半日かかった疲れも一気に吹っ飛び、素晴らしい環境で碁が打てる喜びをすでに感じました。
空港からタクシーで20分程宿泊予定先の貴山大酒店(ホテル)に到着し、近場で地元の有名なお魚料理をいただきました。日本人の口に合う美味しさでした。
おそらく、水も空気のように澄んでいるのでしょう。
ホテルに戻り、7月1日(土)翌日の第4戦に向け、チーム全員で作戦会議です。今回のメンバーは、梅艶監督、佐田篤史三段(代役コーチ)、田口美星初段、西健伸二段(当時初段)、新谷洋佑初段、江村棋弘アマの6名でした。
第4戦は黒番で、作戦が立てやすかったです。序盤に出場する美星初段のため、佐田コーチを中心にして10種類くらいの布石パターンを研究しました。
翌日は、午後2時から対局なので余裕があります。
当然、試合に勝つため、当日の午前中2時間ほど、序盤の研究をチーム全員で行いました。
午後2時からいざ、出陣。相手は、世界チャンピオン唐韋星九段がコーチとして牽引する貴陽チームで強敵です。対局場所のすぐ後ろで現地解説、中国全土に向けテレビ生中継と大々的でした。中国でのリレー碁の人気の高さがうかがえます。
普段とだいぶ雰囲気が違う中でも、一番手の美星初段は堂々と対局開始を待っていました。
美星初段は、1手目を星に打ちおろし、バタバタと20手(40手)を打ち終えました。持ち時間は各40分(1手につき10秒増えるシステム)ですので、序盤では時間を使っている場合ではありません。
こちらがほぼ予想した通りの展開となり、相手に疑問手が出たこともあって優勢を築きました。
美星初段が素晴らしい活躍をみせ、流れを持ってきました。プレッシャーもある中で雰囲気に飲まれずハートが強いですね。
2番手は新谷洋佑初段です。布石担当で10手分しか打たないですが、優劣がはっきりする局面で重要な役割を担っています。こちらが優勢とはいっても差は僅かで、しっかり打たなければなりません。始まる前は少し緊張した面持ちでしたが、始まると集中していい顔をしていました。
41手目から対局が再開し、さらに優勢を築く1手が飛び出しました。55手目の1手は、現地解説では藤沢秀行的1手で素晴らしいと評価されました。
試合の流れを完全に引き寄せました。
3番手(61手~141手)は中盤担当の西健伸当時初段です。中盤は難しい局面が多く、各チームのエース級が登場します。こちらのエース級は西、佐田コーチです。
西初段は、肝っ玉が小さいと自分で言っていましたが、この日は違いました。自信に満ち溢れているような目をしていました。長考派なので、時間が残ってないと厳しいですが、序盤で時間を使わずに西初段に回せたのが大きいです。
1手1手少考しながら慎重に打ち進めます。自然な手が多く、優勢を維持します。
途中長考に耽ったところで、佐田コーチはタイムアウトをとりました。振り返ると、優勢を維持できるかどうかの重要な1手で、佐田コーチの絶妙なタイミングのタイムアウトでした。そこで、西初段が何を考えているのかを聞き出し、検討で考えていることとすり合わせ、3分間でこの手でいくと結論を出しました。
141手まで、みんなが完璧に仕事をこなしました。
ここまで戦いはなく、早くも終盤に突入です。4番手(142~181手)は終盤担当の江村棋弘アマです。私は、天然なところもあり比較的図太い性格で鈍感です。
ですから、誰が相手でも物怖じしないのが武器です。打つ直前はしっかりと打てるか一抹の不安がありましたが、打ち始めると周囲の雑音が消え、集中していました。残り時間は30秒ほどです。佐田コーチの的確な指示もあり、終盤のそれぞれの部分の形のヨセ方がすべて理解できました。後は、寄せ方の順番を自分でイメージして決めて機械的に打つだけです。これを、「Mシステム」と呼びます。
1手を除き、最後までほぼノータイムで打ち進め、1分20秒くらいまで時間を増やすことに成功しました。最低限の働きができたと思います。終盤は相手も時間が残ってないので、ノータイムで打つことで、相手に考える余裕を与えないので、精神的プレッシャーもかけられます。181手終わった段階で、形勢も盤面13目ほど良く、安全圏に突入できました。
5番手(182手~最後)は、余裕を持っての佐田コーチの登場です。みんなは安心して観ていました。佐田コーチのヨセが的確で、さらに差を広げました。
終わってみると盤面16目で(日本では9目半)勝ちしました。
見事、チームワークの勝利です。梅艶監督はじめ、私自身もこみ上げるものがあり、感動しました。
人間やればできることもありますね。1局を通して、中盤難しい局面はあったかもしれませんが悪い場面はなかったようです。現地では、黒の藤沢秀行的名局と評価されていたようです。黒が厚くて地が多いという理想的な展開でした。
その日の夜は、勝利の余韻に浸りました。
しかし、休む間もなく、7月2日(日)午後から第5戦目も貴陽チームと対戦(こちら白番)です。
我がチームは、昨日と同じ順番で挑みました。
一方、貴陽チームは、順番を変えてきて、15歳の少年を1番手に持ってきました。準エース、石像来初段の登場です。序盤から主導権を握り、女性選手を出す前に我々を潰す作戦でしょう。
こちらは、昨日同様、白番でも作戦を練りました。ただ、序盤早々で研究してない変化が出現し、勝負どころを迎えました。早速タイムアウトをとります。
2番手新谷初段のところでも慎重にタイムアウトをとりました。タイムアウトは3回までですがもったいないと言ってはいられません。
戦いが一段落して、我々はまだまだ難しいと思っていて悲観していました。実際は盤面でも白がちょっといいくらい、白が良かったようです。
61手目の中盤から西初段の登場です。途中、重要な局面でタイムアウトを要求しましたが、タイミングが不運で打ってしまっていました。
流れが悪くなり、主導権は黒に移りました。結局最後は、白の大石が打ち取られ我々の投了となりました。
責任感の強い西初段は、普段の手合のようにうなだれていましたが、翌日はケロッとしていました。ここ数日で心臓に産毛が生えたようです。
負けはしましたが、手ごたえを感じた2試合でした。
リレー碁は日本人に向いている団体競技と思います。世界に比べ、日本人には誠実性、協調性、団結力があるからです。個人同士では敵わなくとも、チームとしての戦略を立て、技術をチーム全員で補い合い、チームワークが確立していれば、十分に通用すると感じました。
陸上競技の4×100メートルリレーはまさに日本人に向いている競技の一つでしょう。戦略を立て、チームとしての技術を磨き、チームワークが確立しているからこそ個人の強いアメリカのリレーチームに勝てるのだと思います。
今回の遠征では、みんなそれぞれに得るものがあったと思います。まだまだ戦いは続きますが、チームとして突き詰めればまだまだ強くなれるはずです。
スポンサーさん初め、お世話になっている方々にこの場をお借りして御礼を申し上げます。
チームとしてまだまだ未熟ですが、勝利に向けて、どん欲に追及して参りますので、引き続き、応援よろしくお願いいたします。
関西棋院 江村棋弘
2017年中国都市囲碁リーグ対南京戦(南京)
北海の敗戦から気持ちを切り替えて望みました。今日の大阪チームの作戦は「格上相手に序盤中盤で遅れを取らないように、こちらも初手から全力で挑む」というシンプルなものでした。
序盤、渡辺由宇初段が順調に立ち上がります。渡辺初段は普段寡黙ですが、チームのために主導権を意識した布石を打ってくれました。
布石40手を過ぎたあたりで取った作戦タイムで、チームの意思を統一することができました。布石は安心して見ていました。
中盤は私が出場しました。気持ちで負けていては勝機がないと思い、勇気を出して大きなコウを仕掛けました。相手の判断ミスもあり、大阪チームは沢山のリードを手にできました。
終盤は楊舟アマの出番です。楊ちゃんが出場する試合は他に制限なく自由に選手交代することができます。このチーム最大の強みのひとつです。
勝負どころで相手の男性棋士を相手に20手打つことは本当に大変です。検討陣から見守ることしかできませんが、1手1手こちらも緊張します。作戦タイムが取れない局面では祈ることしかできません。
中盤から終盤にかけての交代タイムで、相手の勝負手をたくさん想定して伝えました。しかし検討陣も見ていなかった好手が潜んでいたのです…
終盤、相手チームの好手で差が一気に詰まります。対局者の楊ちゃんが一番動揺したと思います。チームは最後の作戦タイムを使って終盤勝負を選ぶことにしました。
そこから楊ちゃんはほとんど最善に、むしろ差を広げて新谷洋佑初段につないでくれました。振り返ってみるとこの間の10手で大阪チームは勝利に大きく近づきました。
新谷初段もリードを確実に守りきりました。新谷初段は「ダメを詰めただけ」と謙遜しますが優勢の碁を逃げ切るのは本当に神経を使います。チームは全員で掴んだ勝利でした。
今回チームを応援していただいた郭社長の前で勝利することができて、本当にホッとしました。良い一局が打てて嬉しかったです。
関西棋院棋士 佐田篤史